スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【like an angel of the devil】(5)~円の場合~

 愛液に塗れて息付く亀裂を更に唇で挟み拡げられた。
 包皮で隠れていた亀裂の先端が、露わになる。
 円はマスターの熱い息を身に感じて身悶える。まだ半分覗いただけの陰核をマスターの舌が襲う。
 舌先を尖らせて陰核と包皮の間を舐められた。そして下から掬い上げるように舌先を動かされる。
『あぅうん。あぁ』
下半身に痺れるような刺激を受けて、円が喘ぎだす。
『ヒッヒィ。』
亀裂の下の窪みから透明な滴が溢れ出て来た。
それを舌先で掬い取ったマスターは、更に舌を陰核に擦り付けた。
『ハッ、ふッぅん。ハァ,アァ。』
マスターが突然円から離れた
『あぁいや。』
円は続けて欲しくて啼いた。
ベッドから離れたマスターがブッシュミル・モルト21年物のボトルを下げて円のもとへ戻る。
 円が、横臥しても形よく隆起しているて双丘を寄せ谷間を作る。そこへアイリッシュ・ウィスキーを少量注ぎ込んだ。
猫が舐めるようにワザとピチャピチャ音を立てて舐め取る。
『あぅ、冷たい。あぁ、熱い。』
アルコールの冷たさと舌の熱さが、円の官能を刺激する。
 その間にも下半身はマスターの指の腹でグリグリ捏ね回されている。
 バターを溶かしたようになった円の股間はベタベタに溢れた愛液を垂れ流し、シーツを濡らしている。
円はこれまで感じた事の無い境地に陥っていた。
彼の愛撫はマニュアル通りで、マスターの様に予想が付かない動きはしなかった。
円の脳髄では、先程から危険信号が高らかに鳴っている。
今までの愛撫で十分感じている。早くトドメを挿して欲しかった。
それよりも、これ以上続けて愛撫を受けたら、円は自分の身が制御できなくなるのを恐れた。
円の奥深く、自分でも気が付いていない奥底で、官能の炎が燻り続けていた。
何か切っ掛けでも有れば噴き出してくるコロナの様に紅蓮の中で時を待っていた。
 『マスター・・・わたし・・・


 『・・・・・・・』
 『・・・・・・・・・・・』
『わたし・・・欲しい・・・・』
 数瞬の躊躇いの後、円は呟いた。
 マスターは一言も発せず円の秘密の花園・・・女の園にゆっくりと指を挿入して行く。
 遅々とした動き。
 円は更なる刺激を求めて身体が反応していた。閉じ掛かっていた膝が少しずつ開く。
 マスターの程良く肉の付いたお腹が両膝を割って円に密着する。
 谷間のアイリッシュ・ウィスキーが無くなるとまた満たされる。
 ピチャピチャと舌の奏でる音が部屋に木霊する。
 マスターは円が求めても無視するかのように、先程からの動きと然程変わらずただ円の女を男の体重で押さえただけだった。
 (どうして?)
 彼なら私が求めたら直ぐに・・・
 マスターは・・・40男は焦らしも好きなの?
 ふと上から見下ろすマスターの視線に気が付く。
 顔が近づいてくる・・・・額と額が合わされる・・・・
 
 優しくキスされた。
 
 マスターは卑怯だ。 ・・・・・こんな時に・・・優しいキス・・・
 下半身に新しい刺激・・・もう1本指が挿入される。
 少し鍵型に曲げられ、円の女の壁を引き掻く。
 第二関節が同時に反対側の壁を押し遣る様に擦られる。
 押し当てられるだけだった唇が舌先でこじ開けられた。
 マスターの舌が歯茎を擦る。
 
 彼はこんな事をしない。
 (円・・・どうして・・・・彼と比べてしまうの?)
 自分でもどうして彼と比べてしまうのか判らない。
 今夜一晩のアバンチュール・・・・その筈でしょう?
 円は戸惑いながら自身に言い聞かせる。・・・・今夜だけ・・・・

 「あっ・・」
 
 マスターの指が急に円の奥に挿し込まれた。
 「あぁ・・あっ・・・あぁ」
 マスターの指は、窄まったり開かれたりしながら奥へ奥へと円を侵食して行く。
 決して円を傷つけないように優しくそして力強く膣中を掻き回す。
 「ヒッああうん、ああ。・・・・はひぃぃい。・・・・ふぅっんはぁ・・あっあ・・」
 円は身体の中から波紋の様に拡がる痺れに嬌声を上げた。
 マスターの指は膣中(な  か)を蹂躙するが、マスターの雄(ち)魂(○ぽ)は一向に円の中に挿入(はい)って来ない。
 (・・・そんな・・・かれなら・・・もう・・・)
 付合っている彼氏ならもうとっくに円の膣中(な  か)に収まっていた筈だ。
 彼との性交渉は平均30分位・・・それで満足していた。
 女性誌や男性週刊誌の煽り記事の様に、「イク」事も知ったと思っていた。
 それで十分満足していた。何より心が満たされていると感じていた。

 違った。

 あれは戯事なのだ。・・・・・
 女は好きな人に抱き締められるだけでも充分満足すると聞かされてた事が有る。

 間違いだった。・・・・・

 愛が無くても、好意だけでセックスする事が出来る。
 そして・・・・
 心とカラダが離れてしまう事を暴露された。
 「あうっ・・あぁ・・あぁ・・あぁぁ」
 「ひぃ・はぁぁ・・ひぃひぃい・・・ふぅうん・・・だめ・・・ダメ・だめ」
 円の全身が汗に濡れ腰が浮く。
 浮いた腰がガクガク震える。
 「円・・・顔を上げて。」
 マスターの胸に埋めていた顔を少し上げた。
 いつの間にかマスターの頸に手を廻し、抱き締めていたのだった。
 「もっと。俺に良く見えるように。」
 円は仰け反る様に顔を上げる。
 真上から見下ろすマスターの顔をまともに見ることが出来ない。
 男の人にマジマジと顔を見られるのは初めての経験。
 まして恥ずかしい姿の自分を見られるなんて・・・・
「・・・どうします?ここで止めておきましょうか?」
 マスターが能面のような表情で冷たく告げる。

 「え?あ?・・そんな。」
 高揚していた気分が奈落に突き落とされる。・・・ここで止めるなんて酷い。

 初めに湧き起こった感情。・・・・酷い・・・意地悪・・・・意地悪・・・

 次に湧き起こったのは安堵。・・・・彼を裏切らずに済む・・・・・

 続いて・・・疑問と屈辱感・・・なんで?・・・どうして?・・・欲しくないの?
 円は自分の女としての魅力を否定されたと感じた。
 そのくせマスターの指の動きは止まらない。
 おびただしい淫汁が太腿を濡らしている。マスターの指の動きに合わせて腰が自然に動く。
 「どうします?」
 また短く聞く。

 いまさら・・・・円は想う。

 ふと、思う。マスターは・・・私の口から言わせたいのだ。円が自分からマスターを求めた事を・・・・
 児戯だと思う。 普段の円ならこのままこの部屋から逃げ出すだろう。
 しかし、逃げない。逃げられない。
 円は知らない世界を垣間見てしまった。
 未知の世界・・・・未知の領域・・・
 指でさえ・・・こんなに・・・感じてしまう・・・それなら・・・
 マスターの・・・
 円の頭の中に今、彼は居ない。
 真っ白な霞が立ち込め、円の意識野を覆ってしまっている。
 

 見下ろすマスターの目が暗く瞬く。
 指技は変らず円を追い込む。
 「はぁぁ・・・ひぃぃ・・・ふぅぅん・・あぁぁ・・あんあん・・あっ・・あっ・・
 あぅう・・ひっ・・はぁ・・・はぁ・・イヤっ・・・あぁ・・いやぁ・・・」
 円の蜜壺の入り口が大きく割り開かれる。


【like an angel of the devil】(4)~円の場合~

 今夜の装いは【Black by moussy】のツィードのジャケット。
 けどマスターは興味が無い様子でさっさと脱がして行く。
 『あぁ、まって。』
 kissの合間に円がマスターを制止しようと言葉を掛ける。
 しかし、マスターは動きを止めようとしない。忽ちランジェリーだけの姿になってしまう。
 『あぁいや。恥ずかしい。』
 円には明るい所で男性にランジェリー姿を見せた事が無い。
 エレガントなヨーロピアンクチュールを思わせる、大人の女性の洗練されたセクシーをメイクする、【アンプリスィット】の【アゾット】が美しいフォルムをマスターの眼前に提供された。
 マスターは円の豊満な肉体を包むセクシーなランジェリーの上から、女らしさを主張する乳房を掌で包み込むように触り始める。
 『あっ、ううん。いや。』
 円が可愛い声を上げる。
 彼はこんな事はしない。
 暗がりの中で、円が裸になってベッドへ潜り込むまで大人しく、じっと待っている。
 『あぁん。』
 マスターの掌が双房を揉みしだく。
 左右の乳房が拉げ、形が如何様にもされてしまう。
 しこってきた乳首を両親指で押し潰し、廻すように動かす。
 『はぁぁん。』
 『あっあっ。』
 円は初めての感覚に声を押し殺す事も出来ない。
 彼なら・・・少しの間だけ乳房を揉んで、乳首に吸い付くだろう。
 マスターの愛撫は執拗だった。決して一点に集中しないように、左右の乳房を丹念に刺激する。
 胸の谷間がじっとり汗に滲み、息を乱した円の双丘はふいごの様に上下してしまう。
 強く弱く、ジワジワと乳房が揉まれ、親指と人差し指に挟まれた両乳首がギュッと摘ままれる。
 『あぁん、はぁ。ぅぅ。』
 ブラが外されていた。
 暖かい掌が双丘を鷲掴み、前後左右に揉みしだかれる。
 その時になって漸くマスターは、円をお姫様抱っこしてリビングに連れて行った。
 壁際の武骨なパイプベッドの上に身を横たえた円は、恥ずかしげに両手の掌で顔を覆った。
 その手をマスターに外されると、直ぐにキスの嵐が円を襲う。
 唇も瞼も額も、耳たぶも首筋もマスターの唾液によって汚されて行く。
 マスターの唇が鎖骨の上をさまよう頃には、無意識の内に円の両太ももが擦り合わされていた。
 唇はそのまま下へ下へと移動し、双丘の周りに赤い痣を付けて行く。
 『あっ、そんな、ダメ。』
 マスターの手が腰の辺りを摩り唇がまだ桜色した小さな頂きをねぶる。
 『あっあっ、あぁ。あん、あん、あぁ。』
 40男の執拗な責めに円は手放しではしたない声を張り上げている。
 マスターの脛毛の感触を太股に受け、益々円は乱れる。
 その足が円の両足を割って入りこみ、女の源泉に膝頭が押し付けられる。
 舌先がおへその窪みを通り過ぎ、ショーツの端に差し掛かる。
 腰に当てられていた指がショーツをすくい上げ、円自身をマスターの眼に触れさせようと、ゆっくりと下げられて行く。
 『あぁいや。恥ずかしい。ダメ、ダメです。』
 押し下げられたショーツと共に、円の翳りが露わになって行く。
 綺麗に処理されている恥毛の剃り後にマスターの唇を感じた円は、恥ずかしさの余り、全身に力を込めた。
 膝頭が微妙なバイブレーションを送り込み始める。
 円は急速に力が抜けて行くのを感じた。
 身体の中心から波の様なものが全身に広がり始め、円の抵抗を奪って行く。
 膝頭が当たっている処に熱い湿り気を感じたマスターは、一気に円のショーツを足首まで引き下ろした。
『あっ、見ないで。』
 弱々しい声で、哀願したが、マスターの力強い手で左右に割り裂かれてしまった。
 黒々しい翳りの下に息付く円の女は、いまだ慎ましやかな佇まいを見せていた。
 マスターが顔を埋めて、円の亀裂に舌を伸ばす。
 舌の刺激を受けて円の亀裂は、鳳仙花の実の様に弾け、綺麗なピンク色の柔肉をマスターの前に晒した。
 【綺麗だ。】
 この部屋に戻ってきたマスターの2度目の発声が、円の女を見た感想だった。
 『あぁ、恥ずかしい。』
 この日何度目かの円の恥じらいの声が上がる。



【like an angel of the devil】(3)~円の場合~

 『マスター。カクテルで無くても良いの。何か記念になるお酒無いかしら。・・・こうして4人揃って飲めるのも何時になるか判らないから。』
 円が少し寂しそうに笑う。
 【そんな事は無いでしょう?何時でも逢えますよ。】
 事情を知らないマスターが慰めの言葉を言う。
 円が小声で囁く。
 『彼がね・・・・嫌がるの。【女は家庭に居るべきだ。働くなんて僕は好きじゃ無いな。】・・・父がね、工場を経営しているの。この不況で苦しいの。・・・・・彼のお父様が・・・』
 円の顔が憂いに翳る。
 【どうぞ。】
 マスターがスコッチいスキーを差し出す。
 【ロイヤル・ハウスホールド1707記念ブレンドです。】
  ブキャナン社が英国王室御用達として製造しているお酒です。昭和天皇が皇太子時代に訪英した際にプレゼントされ、大変気に入られた様子に特別に日本だけに輸出が認められた。一般に飲まれるのは日本だけかもしれないお酒で、本国でも容易には飲めない。
 【この1707記念ブレンドは大英帝国誕生300周年を記念してブレンドされたものです。】
 円の口の中で複雑なフルーツの風味が拡がった。その後スモーキーさが加わり、やがてスモーキ―さが薄れて行くと、オランジュの甘い風味が、口にする者を惑わす程の官能的な味わいとなって、オレンジの風味が口の中を覆い尽くしたままフィニッシュへ向かった。
 『美味しい。』
 『私も今後ハウスホールド・・・・になるのよね。・・・・わたしに相応しいわ。』
 円の目が心なしか潤んでいる。
 その時、barの柱時計が0時を告げる。
  『お代わり。』
 マスターがシェイカーを振るう。
 『なによ、これ。』
 一口飲んだ円の声に怒りの成分が含まれていた。
 【シンデレラ。】
 カクテルグラスの中には、オレンジジュース。レモンジュース。パイナップルジュースがシェイクされて入っていた。
 つまりノンアルコールのカクテルだった。
 【12時を過ぎました。お嬢様はお家へ帰る時間です。】
 『・・・もっと酔いたいの。ねえ、マスター夢から覚まさないで。』
 【夢を見るのには人生は長過ぎる、愛を育むのには人生は短過ぎる。】
 『やだ、くさいセリフ。それに、意味も不明だし。』
 【あれ?決まりませんでした?おかしいなぁ?これで円さん、堕ちるかと思ったのに。】
 『冗談、マスターになんか、堕ちませんよ。』
 落ち込んだ心が少し軽くなった。
 彼を嫌いな訳ではないし、家から1歩も出られない訳でもない。ただ独身の頃の様に自由に時間を使えないだけ。
 『ね、今の本当にわたしを口説いてくれたの?』
 【さあ?、40過ぎの男が、若いお嬢さんに相手にされると思いますか?】
 マスターが冗談めかして笑う。
 『シンデレラの魔法は12時を過ぎると解けるの。そこからは貧しいただの少女よ。』
 【青少年保護条例違反で捕まるかな?】
 『わたしは女よ。青少年じゃないわ。』
 傍で聞いている人がいたら、吹き出してしまいそうなセリフ回しに円は愉しげに笑いだした。
 『ありがとうマスター。』
 マスターは花梨に呼ばれてカクテルを作りにその場を離れて行った。
 そしてまた外へ出て行く。
 
 カチィ~ン。
 【ほぅー。】
 白い輪がゆらゆらと辺りに漂う。
 【・・・あそこに。】
【テレビ塔のイルミネーションが見えるだろう?あの隣のマンションの7階777号室。】
 マスターが後ろも見ないで、鍵を差し出した。
 円はそれを受け取ると黙ってbarの中へ入って行く。
 マスターは煙草を思い切り吸いこむと暗い夜空に向かって吐き出す。
 【マズイな。・・・・夜が長過ぎたな。】
 
 部屋の中は殺風景だった。
 壁際に置かれた武骨なパイプベット。
 スチールで出来たスケルトンの収納ラック。
 壁に掛けられたアンディ・ウォーホールのシルクスクリーンのマリリン・モンローと窓際の観葉植物だけが存在を主張している。
 この部屋以外の部屋には生活臭が無い。
 台所とこの居間が彼の空間だ。
 メールが入る。
 【棚の中段に木箱が有る。開けて飲んでいてくれ。】
 たった1行の短いメール。
 箱の上段中央に四角く囲まれた【BUSHMILL】その下に【MALT】と21.
 北アイルランド産のお酒。
 アイリッシュ・ウィスキー、シングルモルト。
 世界で1番古い醸造免許を赦された蒸留所のモノだった。
 口当たりがとても滑らかでスコッチの様なスモーキ―さが、無いのに甘い。
 またメール着信音。
 【あと5分。鍵を開けておいてくれないか。】
 また一口啜って、玄関に向かう。
 ドアの前に立つのと同時にチャイムが響く。
 覗き穴から確認してドアの鍵を開けた。
 目の前にバラの中に白いマーガレットをあしらったブーケが差しだされる。
 キュートな花束。マスターの顔からは想像もつかないプレゼント。
 【ようこそ。like an angel of the devilへ。】
 どちらの意味だろう?
 天使か悪魔か?
 自分の立場を考えると後者の方かな?
 この部屋に入った時から円には羽が生えていたのだろう。
 二人の唇が重なり合うまで3秒も掛らなかった。
 マスターの唇にはホープスーパーライトの煙草臭い匂いが染みついている。
 煙草の匂いが嫌いな円だが、今は気にならない。


【like an angel of the devil】(2)~円の場合~

 スッと円の前に【ホワイト・レディ】が差し出された。
 【御結婚おめでとうございます。店からのささやかなプレゼントです。】
 マスターがさりげなく言葉を添える。
 『ありがとうございます、マスター。』
 『あ~あ、なかなか来られなくなっちゃうなぁ。お酒も家で飲むだけかぁ。ねえ、マスター。このカクテルの作り方教えて。』
 【ドライ・ジン。コアントロー、レモンジュースをシェイカーに氷と一緒に入れて、シェイクします。】
 『コアントローって?』
 【フランス産のリキュールの一種です。】
 円は携帯を取り出すとマスターに向けた。
 『もっとレシピを教えて。』
 赤外線通信を終えるとマスターが言う。
 【コアントローはホワイトキュラソーの一種でコアントロー社が製造しています。無色透明オレンジの香りと、まろやかな甘さが特徴なのですが、氷等で冷やすと淡く白濁する。これがホワイトキュラソーと言われる所以です。】
 『マスターは何種類のカクテルが作れるの?』
 【さぁ?数えた事が無いから。】
 『マスターが一番好きなカクテルは?』
 【わたしは飲めないんです。】
 『え?それなのにバーテンダーを?』
 【味はお客様が飲んで確かめてくれます。美味しくなければ2度とこの店には来ない。】
 『随分危険な賭けですね。』
 【そうですね、でも結婚も同じですよね。独身の私には危険な賭けに思えますけど、だって僅かの間のお付き合いで一生を決められるんですから。あっ、失礼しました。】
 言われてみれば、大きな賭けだ。円もそう思った。
 マリッジブルー。
 多分そんなものなのだろう、この所実は迷い始めている。
 彼は確かに優しくて、清潔感溢れる人、何より頼り甲斐が有る。堅実で真面目な人だ。
 それなのに、ドキドキ感が無い。次に何をするのか時々先に読めてしまう。
 贅沢な悩みだと皆言うだろう。特に鈴や彼女は。
 自分でもそう思う。でも、・・・・・冒険を夢見ていた。
 危険な香りに包まれて見たい。
 ギリギリの攻防を・・・・この身が焦れる恋がしたい。
 『はぁ~。』
 無謀な夢。
 マスターの目が微笑んでいる。良かったね、と言う祝福と平凡な人生を選んだ私への憐憫。
 私にはそう見えた。
 【どうぞ。】
 またしても目の前にカクテルが置かれた。
 【ギムレット。】
 『何故このカクテルを?』
 【チャンドラーの小説の中でレノックスが言ったセリフですよ。『I suppose it's a bit too early for a gimlet』】
『ギムレットには早すぎる。?』
 【ええ、そうですが、小説のタイトルを意識しました。円さんとは『長いお別れ』ですから。】
 アメリカのハードボイルド小説の作者レイモンド・チャンドラーの有名な探偵小説。
 フイリップ・マーロウが主人公のハードボイルドの中のセリフだった。
 そのほかにも有名なセリフが有る。
 『If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be aliv』
【男は・・・・『タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きて行く資格が無い。』】
【『プレイバック。』だね。円さんに捧げるセリフに相応しいのかな。】
 【どうぞ、お幸せに。】
 切なさがこみ上げて来た。
 独身最後の夜でもないのに、なんだか自分だけが別世界に行ってしまうような気分になる。
 『マスター。お名前を聞いていなかったわ。』
 【マスターで結構です。】
 何故か拒絶された気がする。胸がキュンと痛む。
 マスターは花梨のカクテルを作っている。そして鈴のカクテル。どんどん私から離れて行く。
 あぁもう酔ったのね。
 帰らなくては。
 その前にお化粧を直して・・・・・
 誰の為に?何のために?
 いま何時?
 マスターが微笑んでいる。しなやかな指がシェイカーをシェイクしている。
 マスターがそっとカウンターを離れる。
 チーフに変わっていた。
 急いで裏口からそっと外を覗く。
 カチッ、ホープスーパーライトの箱が閉じられジッポライターの蓋が閉じられる。
 【ふぅ~。】
 紫煙が立ち込める。
 煙が沁みたのか、目を細めて虚空を見た。
 痛い。チクリと胸が痛む。
 男の人の喫煙は嫌いだった。
 彼も煙草は吸わない。・・・・しかし夜の帳に紫煙が一筋、映画の場面がよみがえる。
 ボギーもこうして吸っていた。
 映画の様にセクシーな立ち姿。寂しそうな背中。
 そっとその場を離れた。
 見てはいけない風景。
 Barの中には、花梨、鈴、彼女が小粋にグラスを傾けている。
 こうして4人で飲むのは多分最後の夜。


【like an angel of the devil】(1)

 今は何日で、何時頃だろう?明るいのか暗いのかそれすら分からない。
 確か金曜日の飲み会で、2次会までは覚えている。
 その日、同僚の結婚退職のお祝いにささやかな酒宴を開いた。
 幹事はわたし。
 30人いるフロアー全員を対象に、企画した。
 数人の脱落者(具合が悪い人1名、派遣社員の人5名、母子家庭の人2名)は出たが、この手の飲み会にしては出席率は近年に無く最高だった。
 それも、今夜の主役、総務課のアイドル円(まどか)と花梨(カリン)のお陰だろう。共に私の同期。そして鈴(リン)とわたし。
 4年間一緒に働いて一緒に遊び、お互いを親友だと思って来た。
 2人の恋も、もちろん相談を受けていた。
 わたしと鈴の恋も相談した。
 彼女らは実り私達は散った。ただそれだけ。
 円も花梨も職場結婚。
 半径2メートルの恋、わたしの場合は半径50km、鈴は不明、その差が今の境遇の違い。
 些か御酒を頂き過ぎた。わたし以上に鈴も円も花梨も飲んでいた。
 惜しまれつつ1次会は無事に終了し、皆と別れて4人で街に繰り出していた。
 4人とも酔ってはいたが正体を無くす程では無かった。
 渋いドアノッカーを叩いて、店に入って行く。
 4人行きつけのbar。
 【like an angel of the devil】
 ここは初め鈴に連れられて来たお店。いつの間にか常連になっていた。
 オーナー兼マスターのいつもの優しい笑顔。
 スツールに座ると黙って、最初の1杯が配られる。
 【モスコーミュール。】
 10オンスタンブラーに注がれたライムとジンジャーエールの喉越しの爽やかな味わい。
 酔った私達には素敵な選択。
 スミノフ・ウオッカとローディアル・ライム。そしてジンジャーエール。これは絶対ウィルキンソン、カナダドライじゃダメ。
 ウオッカとローディアル・ライムをタンブラーに注ぎ、1/4カットライムを絞り入れ、冷えたウィルキンソンで満たし軽くステア。
 これだけの簡単なカクテルが酔った喉に爽やかさを加味する。
 マスターはその時々の私達の気分で最初の1杯目を出してくれる。
 その日酔った私達は強いお酒から入った。
 円と花梨の前に、【ラスト・キッス】のグラスが置かれた。
 私と鈴には【スカーレット・レディ】。
 どちらもラムベースのカクテル、カクテルについての蘊蓄を聞くのも、この店だと嫌みが無く聞ける。蘊蓄と言う程のものでもないが。
 『マスター?何故このチョイス?』
 【円さんと花梨さんには、そうですね結婚前夜の、独身最後の夜に最後のお酒を噛みしめて飲む。と言うイメージでしょうか。】
 『じゃぁ、私達は?』
 鈴が聞く。
 マスターがにやりと笑う。
 【文字どうりに訳すると、『緋色の女』『深紅の女』・・お二人のイメージです。】
 私はマスターの含み笑いが気になったので、聞いて見た。
 『で、裏は?マスター。』
 【・・・scarlet woman と書きますと。・・・『売春婦』つまり『みだらな女』と言う意味になるんです。結婚されずに独身を謳歌する、お二人を茶化して見ました。】
 今度はマスターが澄ました顔で言う。
 『モー酷い。』と鈴。
 『あーヒド。』とわたし。
 『ん、おいしいわぁ。』
 間の抜けた声は花梨だ。
 『ラスト・キッスってどう作るの?』
 【用意するのは、ホワイト・ラム。ブランディー。レモンジュース。それらと氷を一緒にジェーカーに入れシェイクするだけ。カクテルグラスに入れてさぁ出来上がり。】
ショートなので、早めに頂く。
 【ついでにスカーレットは、ホワイト・ラム。カンパリ。マンダリン・リキュール。フレッシュ・レモンジュース。マラスキーノ。オレンジ・ピール。オレンジ・ピール以外と氷をシェーカーに入れシェイクして、カクテルグラスに注ぐ。最後に三角にカットしたオレンジ・ピールをグラスのエッジに飾って終わり。】
 これもショート。
 全くここのマスターは皮肉屋なんだわ。


<<PrevPageTop

プロフィール

HIRO(S)

Author:HIRO(S)
HN:HIRO(S)
年齢:秘密
性別:秘密
地域:関東地方
動機:gooで削除されたので。
一応フィクションとしてますが、ナイショ
写真は・・・・いけないんだぁ

カレンダー

04 | 2024/05 | 06
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

ブログランキング

投票してね。

FC2Blog Ranking

セレクト・ショップ

あみ・あみ

グッズ
ソフマップ

ラブ・アゲイン
私設私書箱センター
2Candys
最近のコメント

月別アーカイブ
カテゴリー
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

QRコード

QR

リンク
ブロとも申請フォーム
FC2カウンター