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【like an angel of the devil】(4)~円の場合~

 今夜の装いは【Black by moussy】のツィードのジャケット。
 けどマスターは興味が無い様子でさっさと脱がして行く。
 『あぁ、まって。』
 kissの合間に円がマスターを制止しようと言葉を掛ける。
 しかし、マスターは動きを止めようとしない。忽ちランジェリーだけの姿になってしまう。
 『あぁいや。恥ずかしい。』
 円には明るい所で男性にランジェリー姿を見せた事が無い。
 エレガントなヨーロピアンクチュールを思わせる、大人の女性の洗練されたセクシーをメイクする、【アンプリスィット】の【アゾット】が美しいフォルムをマスターの眼前に提供された。
 マスターは円の豊満な肉体を包むセクシーなランジェリーの上から、女らしさを主張する乳房を掌で包み込むように触り始める。
 『あっ、ううん。いや。』
 円が可愛い声を上げる。
 彼はこんな事はしない。
 暗がりの中で、円が裸になってベッドへ潜り込むまで大人しく、じっと待っている。
 『あぁん。』
 マスターの掌が双房を揉みしだく。
 左右の乳房が拉げ、形が如何様にもされてしまう。
 しこってきた乳首を両親指で押し潰し、廻すように動かす。
 『はぁぁん。』
 『あっあっ。』
 円は初めての感覚に声を押し殺す事も出来ない。
 彼なら・・・少しの間だけ乳房を揉んで、乳首に吸い付くだろう。
 マスターの愛撫は執拗だった。決して一点に集中しないように、左右の乳房を丹念に刺激する。
 胸の谷間がじっとり汗に滲み、息を乱した円の双丘はふいごの様に上下してしまう。
 強く弱く、ジワジワと乳房が揉まれ、親指と人差し指に挟まれた両乳首がギュッと摘ままれる。
 『あぁん、はぁ。ぅぅ。』
 ブラが外されていた。
 暖かい掌が双丘を鷲掴み、前後左右に揉みしだかれる。
 その時になって漸くマスターは、円をお姫様抱っこしてリビングに連れて行った。
 壁際の武骨なパイプベッドの上に身を横たえた円は、恥ずかしげに両手の掌で顔を覆った。
 その手をマスターに外されると、直ぐにキスの嵐が円を襲う。
 唇も瞼も額も、耳たぶも首筋もマスターの唾液によって汚されて行く。
 マスターの唇が鎖骨の上をさまよう頃には、無意識の内に円の両太ももが擦り合わされていた。
 唇はそのまま下へ下へと移動し、双丘の周りに赤い痣を付けて行く。
 『あっ、そんな、ダメ。』
 マスターの手が腰の辺りを摩り唇がまだ桜色した小さな頂きをねぶる。
 『あっあっ、あぁ。あん、あん、あぁ。』
 40男の執拗な責めに円は手放しではしたない声を張り上げている。
 マスターの脛毛の感触を太股に受け、益々円は乱れる。
 その足が円の両足を割って入りこみ、女の源泉に膝頭が押し付けられる。
 舌先がおへその窪みを通り過ぎ、ショーツの端に差し掛かる。
 腰に当てられていた指がショーツをすくい上げ、円自身をマスターの眼に触れさせようと、ゆっくりと下げられて行く。
 『あぁいや。恥ずかしい。ダメ、ダメです。』
 押し下げられたショーツと共に、円の翳りが露わになって行く。
 綺麗に処理されている恥毛の剃り後にマスターの唇を感じた円は、恥ずかしさの余り、全身に力を込めた。
 膝頭が微妙なバイブレーションを送り込み始める。
 円は急速に力が抜けて行くのを感じた。
 身体の中心から波の様なものが全身に広がり始め、円の抵抗を奪って行く。
 膝頭が当たっている処に熱い湿り気を感じたマスターは、一気に円のショーツを足首まで引き下ろした。
『あっ、見ないで。』
 弱々しい声で、哀願したが、マスターの力強い手で左右に割り裂かれてしまった。
 黒々しい翳りの下に息付く円の女は、いまだ慎ましやかな佇まいを見せていた。
 マスターが顔を埋めて、円の亀裂に舌を伸ばす。
 舌の刺激を受けて円の亀裂は、鳳仙花の実の様に弾け、綺麗なピンク色の柔肉をマスターの前に晒した。
 【綺麗だ。】
 この部屋に戻ってきたマスターの2度目の発声が、円の女を見た感想だった。
 『あぁ、恥ずかしい。』
 この日何度目かの円の恥じらいの声が上がる。



【like an angel of the devil】(3)~円の場合~

 『マスター。カクテルで無くても良いの。何か記念になるお酒無いかしら。・・・こうして4人揃って飲めるのも何時になるか判らないから。』
 円が少し寂しそうに笑う。
 【そんな事は無いでしょう?何時でも逢えますよ。】
 事情を知らないマスターが慰めの言葉を言う。
 円が小声で囁く。
 『彼がね・・・・嫌がるの。【女は家庭に居るべきだ。働くなんて僕は好きじゃ無いな。】・・・父がね、工場を経営しているの。この不況で苦しいの。・・・・・彼のお父様が・・・』
 円の顔が憂いに翳る。
 【どうぞ。】
 マスターがスコッチいスキーを差し出す。
 【ロイヤル・ハウスホールド1707記念ブレンドです。】
  ブキャナン社が英国王室御用達として製造しているお酒です。昭和天皇が皇太子時代に訪英した際にプレゼントされ、大変気に入られた様子に特別に日本だけに輸出が認められた。一般に飲まれるのは日本だけかもしれないお酒で、本国でも容易には飲めない。
 【この1707記念ブレンドは大英帝国誕生300周年を記念してブレンドされたものです。】
 円の口の中で複雑なフルーツの風味が拡がった。その後スモーキーさが加わり、やがてスモーキ―さが薄れて行くと、オランジュの甘い風味が、口にする者を惑わす程の官能的な味わいとなって、オレンジの風味が口の中を覆い尽くしたままフィニッシュへ向かった。
 『美味しい。』
 『私も今後ハウスホールド・・・・になるのよね。・・・・わたしに相応しいわ。』
 円の目が心なしか潤んでいる。
 その時、barの柱時計が0時を告げる。
  『お代わり。』
 マスターがシェイカーを振るう。
 『なによ、これ。』
 一口飲んだ円の声に怒りの成分が含まれていた。
 【シンデレラ。】
 カクテルグラスの中には、オレンジジュース。レモンジュース。パイナップルジュースがシェイクされて入っていた。
 つまりノンアルコールのカクテルだった。
 【12時を過ぎました。お嬢様はお家へ帰る時間です。】
 『・・・もっと酔いたいの。ねえ、マスター夢から覚まさないで。』
 【夢を見るのには人生は長過ぎる、愛を育むのには人生は短過ぎる。】
 『やだ、くさいセリフ。それに、意味も不明だし。』
 【あれ?決まりませんでした?おかしいなぁ?これで円さん、堕ちるかと思ったのに。】
 『冗談、マスターになんか、堕ちませんよ。』
 落ち込んだ心が少し軽くなった。
 彼を嫌いな訳ではないし、家から1歩も出られない訳でもない。ただ独身の頃の様に自由に時間を使えないだけ。
 『ね、今の本当にわたしを口説いてくれたの?』
 【さあ?、40過ぎの男が、若いお嬢さんに相手にされると思いますか?】
 マスターが冗談めかして笑う。
 『シンデレラの魔法は12時を過ぎると解けるの。そこからは貧しいただの少女よ。』
 【青少年保護条例違反で捕まるかな?】
 『わたしは女よ。青少年じゃないわ。』
 傍で聞いている人がいたら、吹き出してしまいそうなセリフ回しに円は愉しげに笑いだした。
 『ありがとうマスター。』
 マスターは花梨に呼ばれてカクテルを作りにその場を離れて行った。
 そしてまた外へ出て行く。
 
 カチィ~ン。
 【ほぅー。】
 白い輪がゆらゆらと辺りに漂う。
 【・・・あそこに。】
【テレビ塔のイルミネーションが見えるだろう?あの隣のマンションの7階777号室。】
 マスターが後ろも見ないで、鍵を差し出した。
 円はそれを受け取ると黙ってbarの中へ入って行く。
 マスターは煙草を思い切り吸いこむと暗い夜空に向かって吐き出す。
 【マズイな。・・・・夜が長過ぎたな。】
 
 部屋の中は殺風景だった。
 壁際に置かれた武骨なパイプベット。
 スチールで出来たスケルトンの収納ラック。
 壁に掛けられたアンディ・ウォーホールのシルクスクリーンのマリリン・モンローと窓際の観葉植物だけが存在を主張している。
 この部屋以外の部屋には生活臭が無い。
 台所とこの居間が彼の空間だ。
 メールが入る。
 【棚の中段に木箱が有る。開けて飲んでいてくれ。】
 たった1行の短いメール。
 箱の上段中央に四角く囲まれた【BUSHMILL】その下に【MALT】と21.
 北アイルランド産のお酒。
 アイリッシュ・ウィスキー、シングルモルト。
 世界で1番古い醸造免許を赦された蒸留所のモノだった。
 口当たりがとても滑らかでスコッチの様なスモーキ―さが、無いのに甘い。
 またメール着信音。
 【あと5分。鍵を開けておいてくれないか。】
 また一口啜って、玄関に向かう。
 ドアの前に立つのと同時にチャイムが響く。
 覗き穴から確認してドアの鍵を開けた。
 目の前にバラの中に白いマーガレットをあしらったブーケが差しだされる。
 キュートな花束。マスターの顔からは想像もつかないプレゼント。
 【ようこそ。like an angel of the devilへ。】
 どちらの意味だろう?
 天使か悪魔か?
 自分の立場を考えると後者の方かな?
 この部屋に入った時から円には羽が生えていたのだろう。
 二人の唇が重なり合うまで3秒も掛らなかった。
 マスターの唇にはホープスーパーライトの煙草臭い匂いが染みついている。
 煙草の匂いが嫌いな円だが、今は気にならない。


【like an angel of the devil】(2)~円の場合~

 スッと円の前に【ホワイト・レディ】が差し出された。
 【御結婚おめでとうございます。店からのささやかなプレゼントです。】
 マスターがさりげなく言葉を添える。
 『ありがとうございます、マスター。』
 『あ~あ、なかなか来られなくなっちゃうなぁ。お酒も家で飲むだけかぁ。ねえ、マスター。このカクテルの作り方教えて。』
 【ドライ・ジン。コアントロー、レモンジュースをシェイカーに氷と一緒に入れて、シェイクします。】
 『コアントローって?』
 【フランス産のリキュールの一種です。】
 円は携帯を取り出すとマスターに向けた。
 『もっとレシピを教えて。』
 赤外線通信を終えるとマスターが言う。
 【コアントローはホワイトキュラソーの一種でコアントロー社が製造しています。無色透明オレンジの香りと、まろやかな甘さが特徴なのですが、氷等で冷やすと淡く白濁する。これがホワイトキュラソーと言われる所以です。】
 『マスターは何種類のカクテルが作れるの?』
 【さぁ?数えた事が無いから。】
 『マスターが一番好きなカクテルは?』
 【わたしは飲めないんです。】
 『え?それなのにバーテンダーを?』
 【味はお客様が飲んで確かめてくれます。美味しくなければ2度とこの店には来ない。】
 『随分危険な賭けですね。』
 【そうですね、でも結婚も同じですよね。独身の私には危険な賭けに思えますけど、だって僅かの間のお付き合いで一生を決められるんですから。あっ、失礼しました。】
 言われてみれば、大きな賭けだ。円もそう思った。
 マリッジブルー。
 多分そんなものなのだろう、この所実は迷い始めている。
 彼は確かに優しくて、清潔感溢れる人、何より頼り甲斐が有る。堅実で真面目な人だ。
 それなのに、ドキドキ感が無い。次に何をするのか時々先に読めてしまう。
 贅沢な悩みだと皆言うだろう。特に鈴や彼女は。
 自分でもそう思う。でも、・・・・・冒険を夢見ていた。
 危険な香りに包まれて見たい。
 ギリギリの攻防を・・・・この身が焦れる恋がしたい。
 『はぁ~。』
 無謀な夢。
 マスターの目が微笑んでいる。良かったね、と言う祝福と平凡な人生を選んだ私への憐憫。
 私にはそう見えた。
 【どうぞ。】
 またしても目の前にカクテルが置かれた。
 【ギムレット。】
 『何故このカクテルを?』
 【チャンドラーの小説の中でレノックスが言ったセリフですよ。『I suppose it's a bit too early for a gimlet』】
『ギムレットには早すぎる。?』
 【ええ、そうですが、小説のタイトルを意識しました。円さんとは『長いお別れ』ですから。】
 アメリカのハードボイルド小説の作者レイモンド・チャンドラーの有名な探偵小説。
 フイリップ・マーロウが主人公のハードボイルドの中のセリフだった。
 そのほかにも有名なセリフが有る。
 『If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be aliv』
【男は・・・・『タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きて行く資格が無い。』】
【『プレイバック。』だね。円さんに捧げるセリフに相応しいのかな。】
 【どうぞ、お幸せに。】
 切なさがこみ上げて来た。
 独身最後の夜でもないのに、なんだか自分だけが別世界に行ってしまうような気分になる。
 『マスター。お名前を聞いていなかったわ。』
 【マスターで結構です。】
 何故か拒絶された気がする。胸がキュンと痛む。
 マスターは花梨のカクテルを作っている。そして鈴のカクテル。どんどん私から離れて行く。
 あぁもう酔ったのね。
 帰らなくては。
 その前にお化粧を直して・・・・・
 誰の為に?何のために?
 いま何時?
 マスターが微笑んでいる。しなやかな指がシェイカーをシェイクしている。
 マスターがそっとカウンターを離れる。
 チーフに変わっていた。
 急いで裏口からそっと外を覗く。
 カチッ、ホープスーパーライトの箱が閉じられジッポライターの蓋が閉じられる。
 【ふぅ~。】
 紫煙が立ち込める。
 煙が沁みたのか、目を細めて虚空を見た。
 痛い。チクリと胸が痛む。
 男の人の喫煙は嫌いだった。
 彼も煙草は吸わない。・・・・しかし夜の帳に紫煙が一筋、映画の場面がよみがえる。
 ボギーもこうして吸っていた。
 映画の様にセクシーな立ち姿。寂しそうな背中。
 そっとその場を離れた。
 見てはいけない風景。
 Barの中には、花梨、鈴、彼女が小粋にグラスを傾けている。
 こうして4人で飲むのは多分最後の夜。


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HIRO(S)

Author:HIRO(S)
HN:HIRO(S)
年齢:秘密
性別:秘密
地域:関東地方
動機:gooで削除されたので。
一応フィクションとしてますが、ナイショ
写真は・・・・いけないんだぁ

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