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【ドルチェ・アマービレ】(8)

 「はぁ~・・・夏の長期休暇だっていうのに、休む暇無いじゃん。・・ピアノが、ハンガリー狂詩曲 第2番/F.リスト、声楽が、「皇帝ティートの慈悲」より 私は行くが、君は平和にかぁ、はぁ~。」
 美歌が嘆くのも仕方が無い事だった、ただでさえ休暇前は試験課題曲が出されるのに
 7月初旬に行われた定期演奏会では2人ともオーディションに落ちてしまった。今まで秋に行われる物だと思っていた定期演奏会が7月・・準備不足が響いた。
 これでため息が出ないほうが不思議だ。
 「ところで綾歌、秋のセメスターどうするの?私は変えてみようかなぁ~と思っているの。」
 セメスターとはセメスター制度、すべての科目が春・秋の半年で完結する完全セメスター制となっていて、4年間を通じて深く追求することも、半年ごとに新たな挑戦をすることも可能な制度が平成19年から導入された。これだと半年で履修するから遊んでいられないし、色々なバリエーションが選択できる。だけど・・だけど昔は秋に行われていた演奏会が5月から12月までそれぞれの科毎に組まれ、更に不定期の演奏会、歌劇と、今や狭き門じゃないのだが、同時にオーディションには学生や学校関係者、卒業生など間口が広くなり競争が激しい。
 だから、一般大学の学生が面白おかしく自由に休暇をエンジョイできるのに比べ、自分達は自宅でのピアノ・声楽練習に明け暮れ、1~2週間に1度か2度教授に習熟度をチェックされると言う、生活が待っている。
 食事と睡眠以外は音楽漬けの毎日、時々ため息は出るけど、ステージで歌い、奏でる、あの感動と充実感を得る為には必要な事だと、改めて心に刻む。
 でも・・・美歌はどうか知らないが私は・・・『好きな人に聴いてもらいたいから。』
誰?不純な動機って言うのは?・・・自分のために歌うのと誰かの為に歌うのでは意気込みが違うのは、仕方がないことでしょう?

 『それでさぁ・・・美歌、私2週間ばかりこっちに居ないから、連絡は携帯へお願いね。』
 「あん?何・・なんだって? 綾歌・・とうとう、ひと夏の経験?」
 美歌がニヤニヤして聞く。
 あ、コイツいやらしい目で私を見ているな。
 『バカッ・・・合宿よ、合宿。教授の特別レッスンなの。』
 「あ~いいなぁ・・・」
 美歌はあの日1日だけの。教授が特別に設けてくれたレッスンだったのだ。
 「合宿って・・・二人で・・・」
 美歌が泣きそうな顔になる。
 『違うよぉ・・ほら、玲子先輩と、千夏先輩が一緒だよ。』
 玲子先輩は今や数々のコンクールで入賞し、今年の秋には2枚目のCDを出す予定の新進気鋭の声楽家だった。
 先輩もシュトレーゼマンの特別レッスンを受けた人。色々聞いてみたいし相談したいから、誘いに乗ったのだった。

 「お~夏の高原は涼しくて良いなぁ・・・ヤッホー」
 千夏先輩にこんな一面があったなんて知らなかった。
 『ふふっ、可愛いわ千夏。』
 後ろから、グリーンティの香りが漂ってきた。私も使っているお茶の爽やかな香り。
これは多分、ブルガリプールファムの香りだと思う。ミドル以降にジャスミンティーが現れ、ブルガリプールオムに比べお茶系の印象がはっきりわかる香りだと、個人的に思う、非常に上品で大人っぽい印象の香りで、男性受けの良い香り。ローズなどのフローラルやウッディも入って、ジャスミンティーの良さをふんだんに引き出した名作だと思う。
 自分で使っているのはエリザベスアーデンのグリーンティ、ボディークリームだ。OLさんたちに人気が有り夏向き、値段がお手頃なのだ。
 玲子先輩だった。27歳 多分独身、背の高い美人モデル系の女性だった。
 「・・そう、あなたが特別レッスンを受けている綾歌ね。よろしく、あなたの前にシュトレーゼマンに愛された女よ。」
 え?いま愛された。と言いました先輩?
 私がドギマギしていると玲子さんが、言い直した。
 「あら、愛された。と聞かされてビックリしたの?・・言葉のアヤよ綾歌。あれ?アヤと綾、面白いわ。」
 『ハハ・・・先輩・・』
 苦笑するしかない。意外とこの人天然なのかも。
 
 山荘の周囲1km以内に家屋は見当たらなかった。
 「ここはシュトレーゼマンのお友達の別荘なの。私も6年前に始めて連れて来られて、地獄の夏季合宿を受けたわ。懐かしい・・と言うより、思い出したくないほど辛かったわ。
綾歌・・震えているの。」
 「玲子さん、綾歌くんを脅かさないで下さい。直ぐに信じ込むタイプなんですから。」
 千夏先輩が横から口を挟むが、聞きようによっては、フォローになっていない。
 「綾歌君、ここには天然温泉が引かれている、小さいけど露天風呂も設置されている、後で一緒に・・・いてぇ」
 玲子さんが千夏先輩の後頭部をパシッと叩いていた。
 『千夏、暫く見ないうちに随分スケベになったのね。おねーさんは悲しいわ。』
 この二人ワザと漫才しているんだ。・・・それ私の緊張を解そうとして?
 噴出してしまった私を見て二人も大笑いしている。
 【随分楽しそうだね、君達、今夜はゆっくり寛ぐといい、明日からに備えてね。】
 【玲子君・・食事前に少し近況を教えてくれないか?書斎で待っているから。】
 シュトレーゼマンは玲子さんを伴って書斎へ向かう。
 その後姿を見送った私が振り向いたとき、千夏先輩の顔が悔しそうに歪んでいるのが見えた。
 千夏先輩と玲子さん、あの二人の間に何かありそう、その中心に教授がいる。
 その時の私にはそれが何なのか判らなかったが。
 【ひと夏の経験】本当に何かが起こりそうな予感に期待と不安が交互に私を襲う。


【ドルチェ・アマービレ】(9)PageTop少しだけハードに。

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