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【疑惑のテンポラリーファイル】(13)

 『良い匂いですね先生。』
 「リラックスできますでしょう?御香を焚いて見たのです。それから私の事はマサミと呼んで下さい。私もみゆきさんとお呼びしますから。」
 その部屋は分厚い暗幕が張り巡らされ、家庭用プラネタリウムによる星の映像が部屋中隅々まで瞬く空間だった。
 リクライニングチェアーとその脇に小さなテーブル。テーブルを挟んだ反対側にも椅子が置いてある。
 暗幕の裏側を覗くとそこには、防音壁が存在していたのだが隠されている。
 つまり、窓など最初から存在せず暗幕を張る必要もない。そんな造りになっている事を何故隠しているのか? 
 その答えは追々判って来る。等とは言わない、簡単な事だ被験者が暴れたり、自傷行為を起こしても重傷にならない様に設置され、その事を被験者に知らせないよう配慮したからである。
 「それでは、リラクゼーション用の夏の星座達。と言うプログラムを流しますね。リクライニングを調節しましょう。」
 みゆきは素直にリクライニングシートのサイドレバーを操作し徐々に角度を大きくして行く。
 「はい、その位ですね。」

 【北天のおおぐま座にある北斗七星が作る柄杓の形は有名ですが、いて座にもよく似た星の並びがあります。ζ星、τ星、σ星、φ星、λ星、μ星の順に6星をとたどると南斗六星のできあがりです。なるほど、確かに北斗七星の形によく似ています。ただし、北斗七星に比べると少し暗いめの星が多く、大きさも小ぶりなので、ちょっと探しにくいかもしれません】
 部屋に解説のナレーションが、落ち着いた男性の声で静かに流れている。
 みゆきの傍らでマサミがみゆきの様子を観察している。
 みゆきのシートには正面を向いて座ると、耳の辺りにスピーカーが組み込まれた張り出し部分が有るのが見て取れる。
 部屋に響く音声とは別の音声が流れる仕組みだ。
 暫く解説の淡々とした音声が続き、見ている者に目標の星を見つける為の指示が流れていた。
 最初は1個の惑星を映し出す。地球である。次に太陽系。続いて太陽。ここから部屋が真っ暗になる。
 真っ暗になって、音声も沈黙している。
 そこに耳元から囁くようなマサミの声が届く
 「肩の力を抜いて・・・・そう、そうです。手足もダランとさせましょう。・・・・良いですよ。・・・眼を閉じてみましょうか、楽になりますよ。・・・そう、そうです。力を抜いて。・・・・」
 マサミの優しい声がみゆきの肩に入った力を弛緩させた。強張って居た肩が楽になる。
 「さあ、リラックス出来ましたね。そろそろ始まります。目を開けて下さい。」

 小さな点が現れると、壁面のあちらこちらに星が瞬きだす。解説は1等星と呼んでいた。続いて先ほどよりも暗い星々が仄かに暗い夜空に瞬きだす。
 二等星、三等星・・・・・六等星以上になると肉眼では見えない。

 その音声に被せる様に、マサミの声がまた耳元のスピーカーから聞こえて来た。

 「沢山の星で目が疲れましたね。・・・・眼を閉じましょう。・・・・」
みゆきは眼を閉じた。

「あなたは疲れを取る為に瞼を押さえようとします。でも、腕が重くて持ち上がりません。・・・・・・さあ、試してみましょう。まず右腕から。・・・ほら、動きませんね。・・・・左腕も・・・・重くて動きません。・・・・」
 みゆきは腕を動かそうとしたが、重くて動かない。
 
 「数を数えたら私が腕に軽く触れます。 ・・・・・触れられた腕は動くようになります。重かった腕が嘘の様に軽くなります。
 「3・・・・2・・・・・1・・・・・はい。」
 掛け声と共にマサミが軽く右腕に触れた。
 動く!・・・・・右腕が軽い。
 でも、左腕は重いまま動かない。
 「今度は左腕の方に触れますね。・・・3・・・・・2・・・・1・・・ハイ。」
 
 マサミの言葉通り左腕も動く。
 
 「私が瞼を押さえます。疲れがとれますよ。・・・・眼の疲れが取れたら、カラダがスッキリとしています。・・・・・私が数を数えたら瞼を開けましょう。」
 先程と同じ様に瞼が開けられるようになり、開けてみると全身がすっきりとして気分が爽快になる。

 「今日のリラクゼーションはここまでにしましょう。みゆきさん明日もどうですか?」
 『はい、マサミ先生。なんだかカラダがスッキリしました。明日も来たいです。』
 「それは良かったですね。今夜はグッスリ眠れますよ。」
 みゆきは看護師の押す車イスに乗って病室へ帰って行った。

 その日から、数十分、時には1時間半位の時間をこの部屋で過ごすのが、みゆきの日課に加わった。
 それはリハビリで足を動かすようになっても続いた。
 自分とみゆきの間に『ラポール』が完全に築かれたと確信したマサミは、次の段階に進む事をひろしに告げた。
 「ご主人、いよいよ準備が整いました。時間の過去からの遡行・・・に取り掛かります。いいえ、違います。奥様の体験を自分の口で話せるように、心の扉を少し開けて貰うのです。ご本人が嫌がる事、ご本人の意思に反したことをさせる事は、出来ません。テレビとは違います。ご主人も誤解なされていますね。」
「催眠術と言う言葉に、何でも自分の意思を押し付ける事が出来る・・・・被験者の意に沿わない事も、命令出来る。等と誤解されていては困ります。術と言う言い方がいけないのですが、まったくそんな事は出来ません。奥様が話してくれるとしたら、それは奥様が私には話しても良いと思ったからです。私を信頼なされたからです。私に心を開いてくれたと言う事です。」
「勿論、時間は掛かります。退院されてからになるかもしれません。気長にお待ち下さるようお願いします。」
年若い女医に全てを託さなければならないのは、内心忸怩たるものが有りましたが、先生に頼るしかないのも、判っています。


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