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Angélique【1】

俺は何時ものように午前の講義の後、学食でダチとまったりしていた。
 俺達はT大法学部3回生で、将来は法曹界へ行く積りだった。
 あっでも赤門の所じゃないよ。あ・お・も・ん、青門のところさ。
 合コンなんかで自己紹介する時に必ず勘違いされるんだ。
 まぁ勘違いも役得付きだと良いけど、現実は・・・・なんだ。

 「あえ、あれ見ろよ。」
 悪友の信二の間の抜けた声に俺は食べかけの定食から顔を上げた。
 ちなみに、俺が食べていたのはここの名物「特製ボンビーマン定食 490円」だ。
 どんぶりにてんこ盛りされた白米の飯、トン汁、大皿に盛られたハンバーグ・ナポリタン・キャベツ・目玉焼き・海老フライ1本、キャベツにはトマトが載せられ特性ドレッシングが掛けられている。
 テーブルに置いてある振りかけも徳用サイズで自由に振り掛けられる。と、言う事はピィ~ポ~ン!そう、ゴハンのお代わり自由、なんだ。
 昼食は100食限定で「特製ボンビーマン定食」に限り、ご飯食べ放題になる欠食野郎に優しいお店。
 「ヒロシ、ヒロシあれ見ろよ。」
 信二が不躾にも指をさす方向に・・・あり得ない光景が・・・
 170㎝を超える高身長、洗練されたプロポーション。出ている所は思いっきり出ていて、引っ込んでいる処は思いっきり縊れている・・・完璧なモデル体形?かな。
 とにかくそこいらではまず見られない抜群の体形をした美女が佇んでいた。
 サラサラした長い髪。柔らかそうで揉み甲斐の有る胸、張った腰、鷲掴みにしたいお尻。
 「よだれ、涎。ヒロシ。」
 信二に言われて気付いた。俺は口をアングリと開けたまま彼女を見詰めていたんだ。
 「し、信二。あれ何、誰?」
 俺は上擦った声で尋ねたが答えは無い。
 キラキラしたプラチナブロンドの髪を揺らしながら彼女は学食の中を進んで行く。
 彼女が注文した品を見て驚いた。
 俺と同じ特製ボンビーマン定食。
 彼女はトレーを受け取ると振り返り一度辺りをぐるっと見渡した。
 方向を見定めたのか歩き出した足は逡巡無く歩を進めている。
 やがて有るテーブルの所で歩を止め、涼やかな声を掛けた。
 『ここ空いてマスカ?』
 
 俺はビックリして答えられない。代りに信二が答えてしまう。
 「どうぞ。どうぞ空いています。」
 信二が勧めたのは自分の隣の席である。・・・当然だよなぁ。

 しかし彼女は俺の隣の席に腰掛け、俺にニッコリ微笑んでくれた。
 『ハーィ、私Angéliqueよ あなたは?』
 【オ 俺・・ヒロシ。】
 『よろしくね。ヒィローシィ』
 彼女の発音を文字に書くとこんな風に聞こえた。
 そして俺は彼女の食事風景に釘付けになる。
 彼女・・・アンジェリークは黙々と器用に箸を使い食事を口に運ぶ。
 穴の開くほど見惚れている俺に彼女が。
 『もう食べないの?』と問い掛けたので俺は慌てて飯を掻き込み噎せてしまった。
 【ゲホッゲホッ。】
 そんな情けない俺の姿を見た彼女が、テーブルの上の金属製の大きな薬缶からコップに冷水を汲んで差し出してくれた。これは各テーブルの上に置いてある、サービスの冷たい水だ。
 俺は間髪いれずコップの水を一気に飲み干した。
 【ふぅ~助かったぁ!】
 マジで喉詰まらせていた俺は死ぬかと思った。
 それよりも、アンジェリーク・・・彼女が背中を黙って摩っていてくれた事に気付く。
 彼女の手が背中の上部から腰に向かって撫で下ろされる。その手がとても柔らかい感触を伝えていた。
 漸く人心地付いた俺は、横の彼女の方に顔を向けて謝意を示そうとした。
 【ありがとう。え~と、あ、Angéliqueさん。】
 『さん。はいらないわ。Angéliqueと呼んでヒィロォ~シィ』
 何で外国人は日本語的発音をしてくれないのかな?ヒロシの三文字で済むのに。と言う突っ込みは止めて改めて言う。
 【OKアンジェリーク。所で、君はここの学生?】
 思いっきり日本語で聞く。(ばっきゃろ~こちとら江戸っ子でぃ。外国語なんざ喋れるかってんだい。)
 『あら?ヒロシ(彼女の発音を書くと面倒なので以下同じ。)私学生に見える?嬉しい。』
 ・・・と言う事は・・・
 『ここの英文学コースのdoctorよ。』
 あっちゃあ~想定の中の最悪のパターンじゃん。
 え?
 突然彼女の指が俺の右の下唇に伸びる。
 何かを摘まむとそのものを自分の口に入れ咀嚼した。
 俺がビックリ顔で居ると、更に彼女の顔が俺の頬に寄せられる。
 『あらあら、こんな所にも付いている。』言うなり唇が頬を這い回り、最期にディープな口付けをして来た。
 パニック!
 突発的な出来事に遭遇すると、人間は脳が思考停止になってしまう・・・らしい。
 要は間抜け面を晒していたって事。
 
 『じゃぁネ。』
 彼女は何事も無かったかのように中断していた食事を取り、食べ終わると共に俺達を残して、その場を去って行った。
 後に残された俺は周りの痛い視線を浴びながら信二に話しかける。
 【なんだよ・・あれ。俺が何をしたと言うんだ。】
 「お前本当に誰だか知らないのか。あの親しげな振る舞いは普通出来ないだろう?」
 いやホント知り合いなら最高だよなぁ・・・
 

 講義が終わりバイトも終え俺はアパートに帰宅した。
 築40年、とうの昔に改築されても可笑しくない年代モノ。
 家賃が安いのが唯一の取柄だ。
 鍵を開け中に入る。ない。ない。ない。無いぃ!
 アパートに有った俺の荷物がそっくり無くなっている。部屋はもぬけの殻状態。
 【ど、泥棒?】
 俺は咄嗟にそう思った。
 携帯が鳴っている。兄貴からの電話
 『ヒロシ。お前今日からオレのマンションで暮らせ。オレは明日から2年間海外出張だ。後は宜しく。』
 一方的に話し、電話を切ろうとしている。
 【ちょ、チョッと待てよ兄貴。藪から棒になんだよ。】
 『だから、お前の荷物は既にオレのマンションに運び込んだ。マンションには女が居る。だから指示に従ってくれ。』
 【!?・・・おい、何時同棲した?俺は知らないぞ。】
 『ったく。いちいち説明が必要なのか、面倒臭い奴だな。・・・良いかオレは明日から2年間程海外出張なんだ。留守宅は彼女1人になる、物騒だからお前に留守宅を頼むと言っている。話は単純だろう。』
 【何で相談してから荷物を運ぶとか、兄貴の彼女さんを紹介してから、とか段階を踏まない?】
 『・・・踏んだら承知するのか?面倒臭いから取り敢えず外堀を埋めてから事を運ぶ・・・そうしただけだ。』
 【彼女・・・は承知しているのか?ヤバいだろう~。自分で言うのもなんだが、幾ら品行方正な俺でも今日聞いて明日から一緒に暮らす・・若い女性と一つ屋根の下で暮らすなんて、突拍子もないし、第一俺・・理性を保つ自信なんかないぞ。】
 こう言えば兄貴も諦めるだろうと、脅すように話をした。
 『ああ、その事なら心配無い。お前と彼女がどうにかなるなんてあり得ないからな。』
 【なにぃ。兄貴・・大した自信だなぁ】
 俺は怒りの成分を含んだ声で兄貴に文句を言う。
 『そう。』
 あっさり言う。
『あっ、これから会議だ、切るぞ。』
 
 ・・・兄貴めが。・・
 
 仕方が無く兄貴のマンションに向かう。
 (彼女さんに逢ってお断りして、明日からアパートを探すぞ。)
 その時はそう思っていた。マジで。
 エントランスで兄貴の部屋に電話を入れた。
 エレベーターを降りドアの前で開けてくれるのを待った。
 【今晩は。初めまして弟のヒロシです。】
 下げていた頭を上げた。
 まず飛びこんで来たのはすらりとした脚。そして張った腰と縊れ、そして大きな胸。
 上げかけの頭が、平均的な日本人の女性だと、顔の部分だと思う空間に大きな胸が見えた。 更に頭を起す。
 官能的な唇、高い鼻。プラチナブロンド。
 (プラチナブロンド?・・・どこかで見た様な・・)
 俺は記憶を呼び覚まそうと眉間に皺を寄せ目を細めた。
 兄貴から電話が有り・・・バイトで皿を割った・・・講義が退屈で・・・
 記憶がどんどん遡る。・・・・そうか。昼間の・・・まさか?
 『ハァ~イ!ヒロ~シィ』
 おいおい名前の発音が昼間と違うぞ。
 アンジェリーク・・・彼女が?彼女さん?

Angélique【2】PageTop【like an angel of the devil】(3)~鈴の場合~

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写真は・・・・いけないんだぁ

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