天使のような悪魔の声で

　「お久しぶりです、義兄さん。お姉ちゃん、彩ちゃん、こんにちは。」
　その頃妻の妹彩香がマンションに遊びに来たことがあった。
　彩香は当時２２歳で私や薫と同じ会社に就職し、秘書課に配属されていた。
　姉妹はやはりよく似ているものだと改めて思う。
　彩香も背が高い方ではなかったが、はち切れそうな肢体と健康的な肌を大人しい服装　で隠している。
　 　「お久しぶりです、義兄さん。お姉ちゃん、彩ちゃん、こんにちは。」
　その頃妻の妹彩香がマンションに遊びに来たことがあった。
　彩香は当時２２歳で私や薫と同じ会社に就職し、秘書課に配属されていた。
　姉妹はやはりよく似ているものだと改めて思う。
　彩香も背が高い方ではなかったが、はち切れそうな肢体と健康的な肌を大人しい服装　で隠している。
　妻もそうだったが「お嫁さんにしたい女No．１」の座を入社早々に射止めたらしい。
　「まあ、いらっしゃい彩香」
　「ねーね」彩がにっこり笑いながら声を掛ける。
　彩の名は彩香から貰ったようなものだ、生まれる前から女なら彩、男なら晃と妻は決　めつけていて私の意見に耳を貸そうとしなかった。
　「久しぶりにお休みが纏って取れたから、旅行がてらみんなに会えたらと思って。」
　「へ～じゃ、２・３日こっちで過ごせるのね。泊まるところ決まってなければ家に泊ま　りなさい。」
　妻が言うと。
　「義兄さんに迷惑掛けるから・・」
　「そんなことないよ。狭い家だけどゆっくりしてくれると薫も彩も大喜びだよ。」
　「えへへ、実はホテル取ってなかったの。」


　「あははは、彩香も結構ドジなのねぇ。私はそんなドジしなかったわよ。」
　夕食はささやかなものだったが、姉妹二人の掛け合いに私は腹を抱えて笑いっぱなしだった。
　お酒も少し入っているせいか、彩香は悪戯っぽい目を妻に向け話し始める。
　「お姉ちゃんこそ、噂話を聞いているわ。この間秘書課の飲み会の時に酔った室長からネタは一杯仕入れてあるんだから。」
　室長とは妻の秘書課時代も在籍していた上司だ。
　「秘書課の旅行の時、宴会で酔ったお姉ちゃんが・・・」
　と彩香が言い掛けたとき、妻が遮った。
　「やめてよ！」
　強い口調だった、言った自分でも驚いている様子だった。
　「なによお姉ちゃん。お義兄さんに聞かれてマズイ事でもしたの？」
　「そんな、そんな事ある訳ないでしょう。馬鹿なこと言わないで！」
　「へぇ～強く否定する所がアヤシイな。そうだ！真樹さんからも聞いたわよ。」
　真樹の名を聞いた妻の顔色がサッと青ざめた。
　明らかに狼狽している。
　妻と特別親しかったのだから真樹なら色々知っていても当然だろう。その位にしか感じなかったが・・それにしては顔色が変り過ぎる。
　「宴会でお姉ちゃん、酔った勢いで浴衣脱いじゃったんでしょう。真樹さんも見ていたそうよ。」
　ますます妻が青ざめる。
　「でも、下着付けていてよかったね。・・・浴衣に下着って変だけど。」
　「そんなこと・・・しない・・・」
　妻は否定するが、さっのような強い口調では無く弱々しかった。
　「あれ？でも何で秘書課の宴会に真樹さんがいるの？」
　彩香はしきりに首を傾げていた。
　私はそんな彩香と妻を交互に見た。
　妻は私と目を合わせようとせず目線を逸らす、その不自然な態度に実際に有ったことなのだと確信した。
　酒席で醜態を晒すのは男なら結構ある事で、笑い話にしかならないものだが、やはり女として非常に恥ずかしい出来事だったに違いない。
　私はその場の雰囲気をよくするために、笑い声を上げた。
　「ははは、薫もドジ踏んだじゃないか、彩香ちゃんを笑えないな。」
　「で？どんな下着だったんだ。俺も見たかったな。」
　「あなた。やめて。恥ずかしい。」
　　私の反応にほっとしたのか、青ざめていた顔色が赤みを取り戻していた。
　「それからフラフラして料理ひっくり返してしまったのよね。」
　さらに彩香が言う。
　「あっはは、そりゃ大変だったな。」
　「もう！彩香、いい加減止めて、お願いだから。お姉ちゃんを苛めないで」
　　と言いながら自分でもプッと吹いてしまう。
　　笑いに包まれて夕食は終わった。