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【ドルチェ・アマービレ】(4)

 「綾歌くん。今日のレッスンは何?」
 声を掛けてきたのは、千夏先輩だった。
 『あの~・・ピアノレッスンです。千夏先輩は?』
 千夏先輩は、オケのコンダクターを目指している。すでに定期演奏会でタクトを振っていた。
 入学した時から、先輩に憧れていた。先輩のタクトに合わせ独唱をするのが目下の目標なのだ。
 と言う事は定期演奏会のオーディションに受からなければならない。
 その前に・・・先輩と親しくならなければ・・・
 『あのぉ・・先輩、練習を見て欲しいんですけど・・・』
 おお、自分でも大胆な事言っている。と思う。
 教授の影響かな?
 『シュトレーゼマンが、お休みなんです。何でも夕べ合コンで飲みすぎたそうなんです。ふざけてますよね、私達には節制しろ、とか、規則正しい生活を求めるくせに。』
 「ははは・・教授らしい。所で何を?」
 『はい、モーツァルト。フィガロの結婚K.492 第2幕です。』
「ふ~ん、“恋とはどんなものかしら”か、・・綾歌くんは恋を知っている?」
『いえ・・・知りません。千夏先輩は知っているんですか?』
ドキドキ胸の鼓動が、先輩に聞かれてしまう、そんな気がして恥ずかしい。
「いま目の前の人にね、恋をしたから。」
 『え?』 今ので破裂した。
 「と言うのは冗談だけど。」
 そうだった、千夏先輩は涼しい顔をして女の子を苛めるのが趣味だった。
 でも・・・一瞬でも夢見れて嬉しいなぁ・・・言うか!馬鹿千夏。
 乙女心をもて遊んで。教授より酷いかも。
 どうして、男の人って女の子苛めるの?
 小学校の時、スカート捲りされ、中学校でブラのホック外し。
 高校は女子高だったから大丈夫だったけど、大学でまた。
 あ~王子様はどこに居るの?・・・・そこまで純じゃないけど。
 『先輩・・教えてくれるんですか?からかうだけですか?』
 「ふん、急にキャラ変えないでくれる。判った、教えるよ、行こう。」

 「まず声だしをしなよ。“Vergin tutto amor”が良いだろう。伴奏する。歌ったら意味を訳してみな。」


『          慈悲深き 清きおとめよ
           恵み深き み母よ
             ききませよ マリア

               ああ 罪のこのわれの祈りを
                わが悲しみを あわれと思いたまえ
                 このあわれなる われの祈りを
                  ききたまえ あわれみをかけたまえ
                   あわれめ み恵み深くましませる

                    ああ わがみ母

                     清きおとめよ あわれみたまえ           』


 「綾歌くんは“処女”と訳すかと思っていたけど・・・良く出来たね。」
 ふ~んだ、1年の時友達が同じ様に聞かれて、そんなはしたない事言ってはダメとニコニコ
顔の教授に言われていたもん。ヴァージンは聖母マリアの事でしょ。

 「そろそろ、課題曲に取り掛かろうか、僕が伴奏とタクトを同時に振る。僕の練習も兼ねているからな。じゃ行くよ。」
 千夏先輩は右手でピアノ左手でタクトを振っている。
 指揮棒を振るスタイルには色々ある。
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の2代目指揮者としてる有名なトゥール・ニキシュやカール・ベーム等は、指揮棒の先が常に目の高さに来るように指揮し、奏者達の注視する先に己の目が来るようにしていた。
 シカゴ交響楽団の基礎を築いたフィリッ・ライナーは指揮棒をわざと小さくしかも下の見難い位置で振ることにより逆に団員の注意をひいたそうである。カラヤンも短い指揮棒で小澤征爾に影響を与えたが、現在の小澤は ニコラウス・アーノンクールやワレリー・ゲルギエフ、ピエール・ブーレーズらと同様 棒なしで指揮をしている。
 普通右手で指揮するのに千夏先輩は何故左手で振っているのだろうか?
 カラヤンも合唱おんがく野の時には指揮棒を使わなかった。
「カッ~ン!」
 指揮棒がピアノに当たり、木製の棒の先が私の手に当たり血が流れた。
 『いたぁ~い・・』
 「綾歌くん、大丈夫か、ごめん。」
 千夏先輩が椅子から腰を浮かせ、私の方に来ようとした。
 その時室内にさっと入って来た人が居た。
 シュトレーゼマンだ。
 【千夏・・医務室から薬箱借りて来なさい。】
 有無を言わせぬ教授の迫力に千夏先輩も慌てて部屋を出て行く。
 教授が片膝を付き立っている私の手を取り、傷ついた手を見る。
 右手の親指と人差し指の間の柔らかい部分から血が出ていた。
 『教授大丈夫です。血は出ていますけど・・』
 【綾歌君の大切な手だ。】
 『な・・・教授!』
 教授は傷口に唇をあて血を啜り唾液で血止めをしようとしている。
 『教授ぅ・・もう、大丈夫です。放して・・』
 唇をはずした教授が私をしたから見上げている。
 【綾歌君、私の・綾歌君・・・千夏が来るまで血止めをしなければ。】
 教授の唇がまた私の手に押し付けられる。
 『あぁ・・』
 教授の舌が傷口をチロチロ舐めている。初めての感触。
 口唇の動きも加わる。こ、これは、フランス映画のワンシーンのようなKISS?
 『あぁん・・き、教授ぅ・・あん。』
 カラダが痺れる、頬が燃えるように火照る。どうして?
 腰が崩れそうに力が入らない。唇が少しづつ腕を這い上がって来た。
 『はぁん・・あぁ・・・あん・』
 拒否できない、振りほどけば良いのに出来ない。いいえ、その甘美な感触が消えるのが嫌だった。
 教授・・・そんなに、私の綾歌・・・・教授・・ねえ、教授私可笑しいの。
 教授に口付されても嫌じゃないの。これもエッチレッスンなの?
 教授の唇が首筋を這う。舌が這う。
 だめ・・教授・・・それ以上しないで・・・・お願い・・教授・・唇に下さい。
 『教授ぅ』
 私は目を瞑った。あぁ・・意外と柔らかい・・男の人の唇・・
 んん・・舌が入り込んできた。大人のKISS。
 舌をオズオズと絡めて見る。あぁ・・気持ちいの。
 腰が引かれ教授のカラダと密着する。二人の熱が交換される。
 『はぁ~ぁ・・教授・・』
 私は大人のKISSに酔ってしまった。薄っすらと目を開ける、離れて行く教授の顔。
 『あぁ・・教授・・・もっと!。』
 思わず叫んでいた。
 でも教授は、意地悪するように顔の前で人差し指を立て左右に振る。
 【綾歌君、今日は君が心配で思わずしてしまった。千夏がもうすぐ来る。見られたら嫌だろう、君は千夏に恋心を抱いているらしい、さっき庭で見かけた。私は来るべきではなかった。】
 教授は見ていたの?でも・・憧れは憧れです。恋心では無いわ。
 あの時飛び込んできてくれた人。
 (もっと教えて、もつと教えて下さい。教授)
 私は下着を汚していた。KISSで濡らしてしまうなんて・・





 追気に参考資料が有ります。綾歌の世界を垣間見て下さい。

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