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【ドルチェ・アマービレ】(18)

 2週間の特別レッスン・合宿が終わった。
 夏の雷鳴と共に、季節は移り始めていった。
 玲子さんと千夏先輩は、仲良く手を繋いで山荘を出て行った。筈もなく相変わらず毒舌を交わしながら、それでも親密に帰って行った。
 『ぼやぼやしないでよ千夏。明後日には海外へ行くんだから、準備しなくちゃ、いけないのよ。』
 「何だよ、いきなり海外だなんて。聞いてないぞ。」
 『あ~千夏。もう亭主気取り。こら十年早いわよ。』
 「へえ?十年経ったら玲子はオバ・・・痛ってえ!」 千夏先輩が後頭部を抱えて蹲る。
 『それ以上言ったらコロす。・・・千夏がそう思っていたなんて・・・ぅぅ。』
 玲子さんが、あの玲子さんが泣き出した?
 意外と年齢差を気にしていたのね。先輩にも困ったものだ。女心がまるで判っていない。
 「ゴメン玲子。冗談だって、れ、玲子は今でも素敵だよ。」
 あっちゃぁ!千夏先輩これじゃあ火に油を注ぐようなもの・・・
 『今でも?・・・・・い・ま・で・も??』
 「あ、いや、その、なんだ。・・いま・・・その・・・」
 千夏先輩は心底困った顔をして立ち竦んでいた。玲子さんは肩を震わせ泣いている。
 『クッ、くっ、クッ、クッ、クッ、アッハッハッ・・アハハハ!』
 笑っているよ 
、この人はまったく。
 『千夏のバカ。玲子さんだって女だぞ。好きな人にあんな事言われたら、傷付くんだから。』
 この玲子さんは可愛く見える。 結局私は痴話喧嘩を見せられたのね、アホらしい。
 『綾歌、色々お世話したわね。もう二度と迷惑掛けないでよね。』
 前言撤回。どこが可愛いの?この毒舌女。
 『綾歌、今度の月曜日、オーディションが有るから出なさい。』
 『え?えっ~?』
 『公演の主催者は○○市。コンサートホールアンサンブルホール○○○で行われる『マイクロオペラ』演目はビゼー作曲/カルメン。オーディションで選ばれるのは、フランスキータ(ソプラノ)1名、スニガ(バス)1名、ダンカイロ(テノール)1名よ。』
 『対象は、あなたのような一般人、○○大学、大学院、卒業生、勿論ピアノ伴奏者を連れて行くこと。今回は千夏を連れて行きなさい。あ、そうそう、このオーディションは公開で行われるからその積りで居てね。』
 『無理ですよぉ。全然準備していないし、公開だなんて。オーディションで公開なんて有り得ない。』
 『オーケストラ、コーラス、ウィンドアンサンブルの定期演奏会へ出演する学生は、各学年毎或いは各学期毎の成績、および勉学状況により決定されるわ。でも、これらと共演するソリスト、オペラのキャスト、また各種室内楽のメンバーなどは、その都度行われるオーディションにより公正に選考される。対象の学生は、これらのオーディションに自由に応募することができるわ、チャンスは広く公平に与えられていて、このオーディションへの挑戦は、意欲ある学生にとって、勉学の大きな目標となっている。そのことは判るわよね。ならば、自分でチャンスを掴みなさい。準備不足がどうのこうの、やる前からグジグジ言わない。どうせ本番は有料の公開なのよ、無料の公開オーディションで度胸を付けなさい。』
 自分だって、エリザベート王妃国際音楽コンクールに出るかどうかで、グジグジ悩んでいたくせに。
 『なあに、文句が有るの?綾歌あなたはね、もっと場数を踏みなさい。私達は歌ってナンボのもんでしょう。シュトレーゼマンも賛成してくれたわよ。教授からの伝言はね、綾歌君恥掻いて来なさい。だそうよ。』
 教授は、音楽の事になると手厳しい。玲子さんも同じ事を言われていたわ。

 『ハ~イ皆さん。オーディションの模様は、わたしエッちゃんがお話しま~す。』
 なんでエッちゃんが?あんにゃろめ○○まで男と観光に来たな。
 『オペラのオーディションが入場無料で見れるということで見に行きました。オペラには詳しくないので、オーディションとはいえ無料で聴けるとは格好の機会です。演目は、ビゼー作曲/カルメン。本番は8月22日(土)に同じ○○コンサートホールアンサンブルホール○○○で行なわれます(もちろん有料)。「マイクロ・オペラ」というタイトルが示すように、最小限の出演者で、コンパクトな形態で行なわれるようです。アンサンブルホール○○○のステージの広さを考えれば、舞台装置はおそらくなく演奏会形式に近いと思われます。伴奏はオーケストラではなくてピアノのようです。オーディションを本番と同じ場所で行なうなんて贅沢ですね。』
 どこが詳しくないだ。エッちゃん意外と詳しいじゃないの。

『今回のオーディションでは、フランスキータ(ソプラノ)1名、スニガ(バス)1名、ダンカイロ(テノール)1名を選びます。対象は、○○市立芸術大学音楽学部生、大学院生、卒業生。一般。公演の主催が○○市なので、○○市立芸大にお声がかかったのでしょうか。4名が出場しました。ピアノ伴奏者は自分で連れてくる必要があります。』

『集まった聴衆は50名ほど。出演者の関係者というよりは、音楽やオペラが好きそうな年輩の方が多かったです。 』
『審査員が登場。6列目に座りました。左から、○○晶子、□□有奈、△△正治の順。本番で、○○はピアノと音楽監督を、□□はミカエラ役を務めます。』
『アナウンスで出演者名が告げられてオーディションがスタート。課題曲(「カルメン」の一部)と自由曲を続けて演奏しました。1番は、スニガ役のA。ピアノ伴奏はAA。高音の伸びがよくきれい。低音はちょっと聞こえにくいです。両手を広げて歌いました。自由曲は、グノー作曲/歌劇「ファウスト」より「門出を前に」。演奏後に、○○晶子がマイクで質問。「レパートリーは」の質問に「イタリアで歌った経験がある」と答えました。また、バリトンでスニガを選んだ理由について質問。「ダンカイロはいかがですか」と聞くと、Aは「声の質が違うと思います」と答えました。2番は、ダンカイロ役のB。ピアノ伴奏は、BB。演奏が始まってすぐにうまいと分かりました。声が整っている。口から声が出ているのではなくて、体全体が響いている感じ。声量もすごい。自由曲は、ドニゼッティ作曲/歌劇「ファボリータ」より「レオノーラよ、私の愛を受けてくれ」。課題曲とは対照的に、細かな音符が続く曲で選曲も考えられています。また、課題曲は直立不動で歌いましたが、自由曲は手や腕を動かしながら歌いました。ピアノ伴奏のBBの演奏も表情があっていい。演奏後は、○○がレパートリーを聞いた後に、「学内公演か学外公演か」「演出家は誰か」「フランスもののアリアの経験はあるか」など突っ込んで質問しました。』
『3番は、フラスキータ役の綾歌。出演者のうち唯一の女性です。ピアノ伴奏は千夏さん。課題曲の第2幕「五重唱」は有名なメロディーでした。自由曲は、ウェーバー作曲/歌劇「魔弾の射手」より「りりしい若者が来るときは」。歌唱は音程が不安定。跳躍のなめらかさもいまいち。発音もあまりよく聴こえません。ここぞというときの声量はすごかったです。演奏後、○○は「どうもありがとうございました」と話しただけで、質問はなし。なかなか厳しいですね。』
『4番は、ダンカイロ役のC。ピアノ伴奏は、CC。譜めくり要員1名が同伴。課題曲はBと同じ曲ですが、歌う人が違うと別の曲のように思えました。Bとは対照的に、声が硬め。ドイツ語的な発音と言えるでしょうか。もう少しやわらかさがほしいです。強唱ではちょっと無理して声を出している感があります。また、身振り手振り(というよりも演技)を多く交えながら歌いました。ヒザを曲げて歌ったり、手を動かしたり。自由曲(ドニゼッティ作曲/歌劇「ピア・デ・トロメイ」より「彼女を失って」)を歌う前に、ネクタイを外したのはどんな意味があったのでしょうか。演奏後の質問は、「レパートリー」「指揮者」「演出家」を聞いた後に、「まだ学生さんとのことですが、稽古は大丈夫でしょうか」と確認していました。』
15:10に終演。結果発表は、15:30にホワイエで行なわれるとアナウンスがありました。ホワイエでしばらく待つと。ホワイトボードに紙を貼って結果が発表されました。紙には、<フラスキータ>該当者なし、<スニガ>B、<ダンカイロ>A、と書かれていました。AとBは逆の役で歌ったので、間違えて発表したのではないかと思いましたが、どうやら合っているようです。オーディションで歌った役ではない役で合格するなんてちょっとびっくり。Aは低音があまり出なかったので、テノールのダンカイロのほうが適役と判断されたのでしょう。あくまで声の質が審査されたということでしょうか。楽器だったら無理ですが、声楽はこういったコンバートができるのである意味便利ですね。出演者も後から掲示を見に来ていました。同じ大学の先輩と後輩の関係なので、仲良く家路につかれました。』
『短時間ですが、オーディションの現場を見れて勉強になりました。演奏会とは違う独特の緊張感も感じ取れました。オーディションを公開する試みはそれほど多くないと思いますが、無料公開することによって、宣伝効果だけでなく、聴衆も公演の完成過程を知ることができます。固定ファンの獲得にも有効でしょう。機会があればぜひ行きたいです。以上現場のエッちゃんがお送りしました。』

 『綾歌、残念だったね。でも綾歌の実力じゃあんなもんでしょう。あ~あ、シュトレーゼマンさんに頼まれたから、ここまで来たけど、おかげで男と同じ部屋で寝る羽目になったんだから。アリガトウbyエッちゃん☆』
 挨拶もそこそこに、メール1通でエッちゃんは去って行った。
 落ち込む私に千夏先輩の容赦のない声が掛る。
 【教授から言われている。落ちたら帰りはアダルトレッスンの続きだそうだ。何の事だか判らないが、綾歌君は顔に出るからレッスンをちゃんとやっているかどうか、判るそうだ。】
 うぅ・・・泣きっ面に蜂。ってこの事だ。
 しばらく躊躇ったあと、トイレに駆け込んだ。ショーツを脱ぎブラも外す。
 なんで、従っちゃうんだろう?あぁ・・帰りの電車、痴漢は居ないよね。(T_T)
 階段を上がる時、スカートの裾を押さえて昇る。電車は必ず無理やりにでも椅子に座ること。周りの男には鋭い視線を送り威嚇する。これを鉄則として帰って来た。
 部屋に入ると疲れがドッとでた。愛液もドッと出ていた。
 あぁ・・こんなに敏感なカラダになっちゃって・・・この先どうなるの?
 教授は・・・私をどうしたいの?いつの間にかベッドで寝ていた。その日の夢は電車で痴漢に囲まれた夢だった。


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