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クロウエア・エクサラダ【2】

 「ハッ・・はっ・・はぁ・・」
 男がジョギングの足を止めベンチに座った。
 前を走っている自転車の女がブレーキを掛け、振り向く。
 『なあに・・一郎さん、もう止めるの?』
 大濠公園の周囲が2km位なので、ジョギングやサイクリングを楽しむ市民の憩いの場所になっている。
 日曜の朝、清清しい気分の香織が一郎に声を掛けた。
 「だってね、君。・・夕べはジョギングより激しい運動をしたんだよ。やはり受け取る方の人は、体力の回復が早いのかな?・・・良質なタンパク質・・・・イテッ!」
 『もう・・・イヤらしいんだから。ホント・・・男ってや~ね、朝からそんな話して。』
 二人の傍らを数人が走り抜けて行く。
 その間黙っていた一郎が答える。
 「こうして朝の運動が出来るのも後、少しだな。木村さんの赴任期間は今月末で終了だっけ?」
 『その事なんだけど・・・一月延ばして貰ったの。まだ、ちょっとやり残した事があるので。』
 「大変だね、私の方も来月末で派遣期間が終わる。福岡での生活もあと少し・・」
 香織はちょっと不満そうに頬を膨らませ言う。
 『何で延びたか聞いてくれないの?』
 「そうだなぁ・・・私と離れるのが嫌で延長を申し込んだとか?」
 ニヤニヤしながら一郎が答えた。
 香織は悔しそうに唇を噛み、肯定する。
 『そうよ・・一郎さんと離れるのはイヤ! だから、あなたが帰る日まで延ばしたの。可笑しい?』
 「いや、嬉しいよ。・・・だけど、健一さんの事は良いのか?」
 『あの人の事は言わないで・・・今を大切にしたいの。今の自分の気持ちに正直になりたいの。』
 香織はそう言い放つと、自転車をこぎ始めた。
 『先に帰っているわ、ちゃんと走るのよ。』
 
 あの日、偶然出会った日から半月後、二人は再会した。
  香織も一郎もあの一件はあの時だけのものであり、日常に持ち込んではいけないと、頑なに思っていた。
 「しかし、こんな偶然あるんだね。福岡へ同じ時期に派遣され、同じ様な期間単身赴任だなんて・・・」
  二人は、博多にあるホテルオークラ福岡のオークラ ブラッスリーで地ビールを片手に軽く食事をしていた。
 『またその話ですかぁ?・・・一郎さん迷信深いのね。・・・』
 「いや・・・そういう訳じゃ・・」
 一郎は言おうか言うまいか逡巡している。
 『なぁに?・・・私が代わりに言いましょうか?・・・偶然が2回も3回も続くと、それは必然だ。と言いたいのでしょう。』
 意識してか、無意識か、香織は唇に付いた泡を舌先で舐め取る。その仕種に一郎はドキドキしている。
 (まったく、若い男が彼女との初デートで、緊張して動揺しているみたいだ、一郎。40後半の男のくせに。)
 内心の動揺を隠すように、一口ビールを呷る。
 一口のつもりがジョッキ半分ほど飲んでしまった。
 「フゥ~・・・仕事の後の一杯はやっぱり上手い。それに誰かと一緒に夕食を取るのも半月振りかな・・・」
 『一郎さんはちゃんと自炊しているの?』
 「無理、ムリ・・私のような年代は「男子厨房に入らず」の最後の世代なんだよ。自宅でも台所に入って何回か作って見た事があるけれど、散々早智子に怒られた。一人分なのに大量に作る。台所を汚す、片付けは出来ない。・・・離婚でもされたら途方に暮れるな。」
 苦笑しながら、話す一郎に。
 『なんなら、私が作ってあげましょうか?二人で食事すれば食費も浮くし、寂しさもまぎれるでしょう?』
 さりげなく提案する香織。
 「え?・・・木村さん、そんなことしていいの?」
 『だって・・・同じマンションの上下に住んでいるのよ。行き来するのに支障が無いでしょう。』
 屈託無く話す香織に、邪な思いのあった一郎は反省しながら答えた。
 「木村さんがそれで良いのなら、私は助かるよ。本当に良いの?」
 『ええ、それから、その木村さんはヤメテ。香織でいいから。』
 「じゃお願いするよ。」
 翌日の夕食からどちらかの家を訪問し、食事をする事になった。
 最初は一郎の部屋だった。
 マンションの10階に一郎の部屋は有った。造りはどこの部屋も同じなので珍しくも無いはずだが、香織は妙に周りをキョロキョロ見廻している。
 「どうしたの?」
 『え?・・あのね・・・汚れ物が無いなぁと思って・・』
 「乾燥洗濯機があるからね、これは流石に仕込まれたよ。」
 『ふ~ん、そうなんだぁ。がっかり。』
 「・・・なんで?」
 『汚れ物も洗ってあげようかなぁ・・・と、思っていたのに無いから・・』
 「それは・・まずいよ・・パンツも有るんだぜ。」
 『平気よ・・・だって一郎さんの全部見ているもの・・』
 香織は顔を赤らめながら言う。
 照れ隠しに。
 『・・・それに・・無いのね・・エッチな本とかDVDとか・・』
 「香織さん・・・やっぱり君・・・あの時からイヤらしい体質に代わったんじゃないの?前はそんな事考えたことも無いでしょう。ずいぶん大胆な事を言っているよ。」
 『酔ったのかしら?・・・ううん・・この部屋の匂いに酔ったのかも。この香りクリニークのハッピー・フォーメンでしょう?』
 「ご明答・・・有名だからね。でも・・・それだけじゃないんだ。あそこ見て。」
 一郎が指さした先に鉢植えがあった。
 『なに?・・・なんていう木・・』
 「クロウエア・エクサラダ。別名をサザンクロスって言うんだ、葉っぱをひとつ揉んでみて。」
 『あっ・・・そうかぁ・・・この匂い』
 細長い葉を揉んだ香織は指に付いた匂いを嗅いだ。
『へ~以外、一郎さんが鉢植え・・・似合わないなぁ・・』
 「え~それは酷いよ。」
 嘘だ、似合っている。
 心が和む、赴任してから昨日までの忙しさが・・・こんな小さな事で軽くなる。


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